マーケットメイカーとは
マーケットメイカーとは、財の仲買をする仲介業者の一種です。売手から買値で財を買取り、それを売値で買手に売ります。特に、売値と買値を市場参加者に向けて広く公示して、どの売手に対しても公示した買値で、どの買手に対しても公示した売値で、取引をする場合にマーケットメイカーと呼ばれます。
そうしたマーケットメイカーが市場で担う役割については、Demesetz(1968) "The Cost of Transacting" がとても明快に論じています。Demesetz(1968) は 当時のニューヨーク証券取引所(NYSE)を観察しました。当時のNYSEの立会場はオープンアウトクライ方式といって、売手と買手が自身の取引条件、つまり価格と数量を、叫びあって取引相手を探しながら交渉をしていました。例えば100ドルで売りたい売手は100ドルで買いたい買手に出会う必要があります。しかし即座に出会えるとは限りません。つまりNYSEの立会場はとても探索市場的だったのです。
NYSEには、各銘柄に一人、スペシャリストと呼ばれる仲介業者が存在し、立会場で売手と買手がやってくるのを待ち続けます。スペシャリストは、自分の元へやってきた売手の取引条件(売り注文)と買手の取引条件(買い注文)をプールし、それらを付き合わせる業務を行っています。その一方で、売手に対しては買値(買呼値)を、買手に対しては売値(売呼値)を市場に公示し、マーケットメイカーとして反対売買(売手に対して買手になってあげたり、買手に対して売手になってあげたり)をしています。売手も買手は、スペシャリストの公示する呼び値に応じれば、即座にスペシャリストと取引できます。つまりスペシャリストは流動性供給主体であり、その存在によって、取引には即時性が生まれ、市場の流動性が高まります。
Gehrig(1993) "Intermediation in Search Market" は、流動性供給主体的なマーケットメイカーと探索市場的な立会場を、ゲーム理論的にモデル化し、その静学均衡を計算しました。Miao(2006) "A Search Model of Centralized and Decentralized Trade" はGehrig(1993)を動学モデル化しました。その他、様々な文献がGehrig(1993)のゲーム理論的モデルの発展的な分析をしています。もちろんGehrig(1993)の流れをくまない文献群も存在します。